梶研究室

“炭素ナノリング”の大量合成と有機デバイス素子の作製に成功

本成果は、2017年11月30日に米国化学会誌Journal of the American Chemical Societyオンライン速報版に公開されました。 
京都大学 化学研究所の山子茂教授、茅原栄一助教、孫連盛氏(大学院生)、大西弘晃氏(大学院生、当時)らのグループと、同研究所の梶弘典教授、鈴木克明助教、福島達也助教(現神戸大学)、澤田彩日氏(学部生)らの研究グループは、「ベンゼン環」をリング状につなげた“炭素ナノリング”の大量合成に成功するとともに、この炭素ナノリング薄膜の電子移動度が、有機薄膜太陽電池の有機電子受容体として汎用されているフラーレン誘導体に匹敵することを明らかにしました。
 
概要
 ベンゼン環をリング状につなげた分子であるシクロパラフェニレン (CPP)を代表とする“炭素ナノリング”は、カーボンナノチューブやフラーレンの最小構成単位であり、次世代の有機電子材料としての応用に興味が持たれています。特に、この数年の間に、本研究グループをはじめとする世界中での活発な研究により、“炭素ナノリング”の化学合成やその物性解明が飛躍的に進み、その材料科学への展開には大きな期待が寄せられています。しかし、その発展にもかかわらず、大量合成の困難さのため、炭素ナノリングを有機デバイス材料として応用した報告例はこれまでにありませんでした。
 本研究では、これまでに本研究グループが独自に開発に成功している2つのCPPの合成法を融合させた合成経路により、市販の試薬から短工程で、10個のベンゼン環からなる[10]CPPとその誘導体をグラムスケールで合成することに成功しました。さらに、得られた化合物は有機溶媒によく溶けるため、これまで困難であった非晶薄膜の作製が可能となりました。実際、塗布プロセスにより、“炭素ナノリング”の有機薄膜およびデバイス作製に初めて成功しました。さらに、その薄膜物性を測定したところ、有機薄膜太陽電池の有機電子受容体として汎用されているフラーレン誘導体にも匹敵する電子移動度を示すことが明らかになりました。
 “炭素ナノリング”では、フラーレン類に比べて自由な分子設計が可能であることから、電子物性などの制御などにおいても、フラーレン誘導体に比べて有利であると考えられます。今回の結果は、有機ナノエレクトロニクス分野をはじめとする材料開発に大きな波及効果を与えると期待されます。また、本研究により、“炭素ナノリング”を材料科学へと展開する突破口が開けました。今後、デバイス作製と評価によって得られた知見を、“炭素ナノリング”の分子設計にフィードバックしていくことにより、新しい有機電子材料の創製が可能になると期待されます。
 
 

●用語解説●

塗布プロセス:材料を適切な有機溶媒に溶かし、その溶液を基板上にむらなく平らに塗ることにより製膜する方法。

 
 本研究は、JSPS科研費16H06352、26410043、京都大学化学研究所「化研らしい融合的・開拓的研究助成」の助成を受けたものです。また、本研究成果の一部は、京都大学化学研究所スーパーコンピュータシステムを利用して得られたものです。
 
Eiichi Kayahara, Liansheng Sun, Hiroaki Onishi, Katsuaki Suzuki, Tatsuya Fukushima, Ayaka Sawada, Hironori Kaji, and Shigeru Yamago, Gram-Scale Syntheses and Conductivities of [10]Cycloparaphenylene and Its Tetraalkoxy Derivatives, Journal of the American Chemical Society, DOI: 10.1021/jacs.7b11526 (2017).